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廊下

20
 
清風園。
 
古く、汚れた建物だった。
 
廊下は薄暗く、青白い蛍光灯が寒々しかった。
 
八人部屋の片隅に、「野村修」の名札がかかったベッドがあった。
 
そのベッドの上で、野村は眠っていた。
 
横にある小さなテーブルには、箸をつけていない冷えた食事と、あのメガネが置かれていた。
 
健一はポケットから封筒を取り出して、野村の胸元に載せた。
 
高校生だったころの自分が書いた、あの手紙だった。
 
店の個室で楽しそうに話す野村の姿が瞼に浮かんだ。
 
すると突然、産まれて初めて観た感動的な野村のあの舞台が鮮烈によみがってきた。
 
堂々たる所作、朗々と響き渡る声、迫力に満ちたセリフ、圧倒的な存在感。
 
健一の前にいる小さな老人が、あの野村修その人だとはとても信じられなかった。
 
「ありがとうございます。」
 
健一は静かに言った。
 
「ありがとうございます。」
 
健一は心からそう言った。
 
まつ毛が濡れた。
 
声を上げて泣いてしまいそうだった。
 
健一はあわてて右手で口を抑えた。
 
声にならない声が指の間からもれていた。
 
野村は眠っていた。
 
ポケットからもうひとつ封筒を出すと、健一は野村の胸元に載せた。
 
手紙

それは現在の健一が、現在の野村修に宛てて書いた手紙だった。
 
「また来ます。

今度は、山崎とマグロの刺身、それにフレンチドレッシングのサラダ、持って来ます。

ありがとうございました。」
 
深々と一礼すると、健一は部屋を後にした。
 
ベッドに横たわる野村の目からひとすじの涙が流れ落ちた。 
                      
                                      了
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Mr.NAO

Author:Mr.NAO
東京都港区出身 
男性 
水瓶座

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