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ランキング

井上クンは、社員の人たちが持っている様々な才能や趣味について、社内のいろいろな人間に話し、賞賛しました。

ところが、意外なことにも、こんなに小さな会社なのに、社員同士は個人的にはほとんど交流しないに等しい状態だということがわかってきました。

未婚か既婚かとか、どこに住んでいるのか、どんな特技を持ち、どんな夢を抱いているのか、などということは知っていても、それ以上の人間関係を作ろうとしないのです。

仕事がみんな別々で、一堂に顔を合わせる機会が少ないからとはいえ、なんてもったいないんだろう、と井上クンは痛切に思いました。

こんなにいろんな力を持った人たちなんおだから、もっとお互いを深く知り合って、会社全体がひとつになっていけば、グンと業績が上がるだろうに、と残念に思いました。

そこで、誰かと話してその趣味や才能や人間性に新たに感嘆したら、それをその人とはコミュニケーションが薄いと思われる人に積極的にアピールすることにし、さっそく実行しました。

すると、どうでしょう。

しばらくすると、それまで会話をしているのを見たこともなかった社員同士が明るく談笑している光景を目にするようになってきたのです。

その数は日増しに多くなっていきました。

それまでは外回りから帰って来てもひたすら無言だった人たちも、井上クンを交えて朗らかにしゃべり合うようになりました。

そして、さらには、年齢差のある者同士、管理職と若手、正社員と派遣社員といった、立場の違いをも超えた交流が生まれていったのです。

そうなると、果たして、仕事がどんどんと好転し出しました。

ネットや電話による商品の注文が急速に増え、驚いたことに、わずか一ヶ月でネット上の売り上げランキングが第3位になったのです。

それまでは30位あたりを低迷していたのですから、これは快挙というより、まるで奇跡のような壮挙でした。

社員同士の人間関係が快適なものになったので、全員が目標達成に向けてやる気を持ち、みんなで力を合わせていこうという連帯感を自覚し、何かを成就(じょうじゅ)したときの満足感を共有するようになっていったのです。

その結果、営業での言葉遣い、電話の応対、対面での商品説明など、現実としての仕事のテクニックもまた飛躍的に向上したのです。

各自が各自を注意し、勉強するようになったのです。

受注処理から発送の手続きなど、井上クンの仕事量も非常に増えたので、毎日がキビキビとした心地よい忙しさに包まれるようになりました。

賃貸マンションの住民からも、最近担当の人間の好感度が増した、という声が聞こえてくるようになりました。

かつての自分と比べたら月とスッポンだな、と苦笑いしたくなるくらい、井上クンは毎朝出社するのが楽しくてしかたがなくなってきました。

周りの人たちも、よりいっそうの生き甲斐を感じながら日々の仕事に邁進(まいしん)しました。

そんなある日のことでした。

一日の業務を終えて、井上クンが誰もいないオフィスを後にしようとしたとき、電話が鳴りました。

出ると、藤山社長で、出先からでした。

話したいことがある、今から行くので、そのまま10分ほどそこで待っていてくれないか、ということでした。

その日はアフターファイブに何の予定もなかったので言われたとおり待っていると、信じられないことが起こりました。

社長以下、社員からパートから、とにかく会社の関係者全員が、いきなり現れたのです。

井上クンがビックリ仰天していると、藤山社長が言いました。

「今から井上クンの謝恩パーティーを開催します。驚かそうと思って黙っていたんだ。」

「た、確かに驚きましたが、その、謝恩パーティーって、なんですか?」

井上クンが尋ねると、美術館巡りの山田さんがボソッと言いました。

「私たちゃ、あんたに感謝してるんだよ。」

「え?」

アユ釣りの寺本さんが張りのある声を井上クンに向けました。

「まとまりがなくてね、私ら。自分の仕事、無難にこなしてりゃあ、それでいいじゃないかってね。同僚とこれ以上仲良くしようなんて思ってもいなかったんだ。それがさあ、キミのおかげで目が覚めたっていうか・・・。」

「要するに、初めて仲間としての気持ちを持ち合うことができたのね。井上クンのおかげでね。」

水博士の和枝さんが、しんみりと言いました。

「今までも、社員同士にはものすごく少人数の間では人間関係があったよ。でも、そこ止まりだった。しかし、キミはそれを見事にまとめ上げてくれた。そして、それによって我々の実力を最大限まで高めてくれたんだ。ありがとう。」

藤山社長は井上クンの両手を取って、強く揺さぶりました。

デスクの上には、寺本さんのアユ、雄一さんの手打ちうどんをはじめ、数々の料理が並べられました。

「ありがとう。カンパイ!」

みんなでビールを飲み干すと、井上クンに向かって全員から大きな拍手が送られました。

照れながら、井上クンは何度も頭を下げました。

須藤クンに2杯目のビールを注がれていると、ケータイにメールが来ました。

「あ、すいません。」

廊下に出て見てみると、メールはひと月以上前に逢った彼女からでした。

ケータイを持つ手

「仕事、どう? 会えない? 私、離婚するかも。」

小さなオフィスは、すでに賑やかになり始めていました。

井上クンは、静かにケータイのスイッチを切りました。



                                        了



(写真は、googleさんから拝借させていただきました。)








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Mr.NAO

Author:Mr.NAO
東京都港区出身 
男性 
水瓶座

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