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区役所

事故についての説明会は、区役所の会議室でおこなわれました。

井上クンは専務といっしょにクルマで行き、他の社員は電車で出かけました。

その車中で、専務が言いました。

今日の説明会で司会をしてほしい、と。

そして、これが台本だと言って、専務は数枚の紙を綴じたものを渡しました。

なんで関係ない部署の自分が同行するように命じられたのかも疑問でしたが、司会をと言われてますます不審に思いました。

しかし、自分を信頼してくれているからこその選抜だったのだろうと考え、井上クンは素直に従いました。

会議室には区長をはじめとする区の幹部たちがぞくぞくと集まって来ました。

やがて、台本どおりに井上クンの司会進行で会が始まりました。

先ず専務の紹介と謝罪、次が技術の担当による事故原因についての解説、質疑応答、閉会という順序でした。

参加者全員に配られた資料は、井上クンが昨日専務から渡されたものと同じでした。

ですから、当然、担当者による事故原因についての解説は事実とは異なり、補強ワイヤーの不足によってではなく、人の往来に起因する震動によって事故は起きた、というものでした。

自社の責任を隠し、虚偽の報告解説を平然と行う担当者、それを眉ひとつ動かさずに聞いている専務以下数名の先輩や管理職の姿に、井上クンはある意味での社会の真実を見せられたような気がして、背筋が震えました。

そこには区の土木や建築の専門家もいたはずですが、解説と資料はぴったり一致する内容でしたので、異論を差し挟む余地はありませんでした。

耐震補強は大丈夫なのか、とか、酸性雨の浸食は関係ないのか、といった声が質疑応答で上がったものの、担当者は、弊社は万全の仕事をしており、これは偶発的な事故である、しかし、万が一のことを考えて、現在、弊社がこの10年間に建築したすべてのビルを無償で点検させていただいている、と答えました。

すると会場がざわつきましたので、専務が立ち上がって言いました。

弊社の建築には些(いささ)かの手落ちもないと確信しているが、壁面が剥がれ落ちるからには、ひょっとすると人の往来による震動以外に原因があるかもしれない、それについては徹底的に調べて区長様にご報告し、絶対に二度と同様のことが起こらないように万策を尽くす。

これを聞いてようやくざわつきが収まったところで、専務が井上クンに目で合図しました。

閉会しろ、というのです。

井上クンは台本の次のところに視点を定めました。

しかし、そこに書いてある文章を見るや、彼は我が目を疑いました。

専務を見ると無表情でうなづいています。

しかたなく、井上クンは声を上げて台本を読みました。

「弊社は我が国を代表する建設会社として、世界40カ国以上で実績を上げています。
その名誉にかけて、杜撰(ずさん)な工事、不行き届きな仕事は絶対におこなっていない、と自信をもって申し上げます。
その現れが、本日の出席者です。
ここにおりますこの人間は、弊社の専務取締役であります。
通常、本日のような会に専務クラスの取締役が出席することはございません。
また、専務は自ら何度も現場に赴(おもむ)き、夜半過ぎまで点検検査の陣頭指揮に当たりました。
このようなこともまた、弊社としては前例のないことであります。
どうか、そこのところをお汲み取りくださり、真に僭越ではございますが、弊社の今回の件に対します尽力をご理解いただきますよう、伏してお願い申し上げます。」

これを聞くと、またもや会場はざわつきましたが、区長が側近に指示したようで、すぐに会は終わりました。

帰りのクルマの中で、専務はご満悦の様子でした。

井上クンは思いました。

自分はこの件とは直接関係のない部署にいるので事故の本当の原因を知らない、と思われたから、会の司会をさせられたのだ。

本当は明らかに手抜き工事がもとで起きた事故なのに、発注者の前であのように臆面もない演説をするのは、事情を知っている人間なら誰だってイヤに決まっている。

だから、自分が選ばれたのだ。

自分が心から誇りに思っていたこの大企業は、実は極めて卑劣な体質を持った会社だったのか。

専務という大物をよこしているんだからこちらの努力を認めろとは、権威主義そのものじゃないか。

顧客第一であるべき私企業の言うことじゃない。

井上クンは、あまりにも情けなくて泣きたくなりました。

でも、ことはこれだけではなかったのです。


                                      つづく



(写真は、googleさんから拝借させていただきました。)

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Mr.NAO

Author:Mr.NAO
東京都港区出身 
男性 
水瓶座

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