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郊外の線路

その大学は、都心から私鉄の急行で1時間半もかかる田園地帯にありました。

彼はここを「山の中のど田舎」と呼んでいます。

駅の周りには、ほとんど何もありません。

あるのは、学生相手の小さな飲食店が何軒かとパチンコ屋、そして麻雀の店だけです。

駅から大学までの道はすべてが上り坂で、朝夕、若者たちはアリのようにつながって、この道をぞろぞろと上り下るのです。

その行列に加わって歩きながら、毎日彼は本気で思います。

これで足に鉄の玉がくっついてたら、マジ囚人だよな。

彼の名は、一貴(かずき)。

東京の高校を出ました。

その高校は名門でもなければ進学校でもありませんでしたが、いわゆるMARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)を第一希望にする生徒が一番多く、それ以上の偏差値の大学にも何人か入る、そういう高校でした。

しかし、一貴は受験勉強をしませんでした。

今は少子化の時代だから、大学なんてどこかに入れるだろう、と本当に気楽に軽く考えていたのです。

もし全部落ちたら浪人だ、とも独りで決めていました。

ところが、親が浪人は許さないと言い始めたのです。

父親が勤める会社の業績が不振で、いくつかの工場を閉鎖する事態に追い込まれ、ヘタをすると父親自身のクビも危なくなってきた、というのが直接の原因でした。

当てずっぽうに8校の、それぞれ一番受かりやすそうな学部を受けましたが、1校にしか合格しませんでした。

もちろん、受けた中で最低ランクの大学でした。

ここには受かっても行かないつもりでした。

他のところに受かる、と思っていたからです。

だから、こんな遠いところにあるのを承知で受けたのでした。

しかし、けっきょく、ここに来ることになってしまいました。

果たして、4月から一貴の鬱々(うつうつ)たる学生生活が始まったのです。

朝6時起床。

地下鉄とJRを乗り継いでターミナル駅へ。

そこから、7時43分発の急行に乗ります。

途中、沿線にあるいくつもの大学の学生が少しずつ降りていくのですが、彼の大学の学生が最も多いので、自分の駅に到着するまで電車は込んだままです。

ずいぶん早く行ってホームで並んでいれば座席に座れるのでしょうが、彼のライフサイクルではそれは無理です。

これ以上早く起きられないからです。

ギリギリ走って行って電車に飛び乗るのが精一杯なのです。

ぎゅう詰めの車内に立ちっぱなしで90分というのは、いかに若い男性でもさすがに疲れます。

大学の近くに下宿させてくれ、と両親に頼んでみようかとも思いました。

でも、やめました。

彼の大学は、他の大学に比べて3割近くも入学金が高かったのです。

おまけに、遠隔地にあるので交通費も余計にかかっています。

父親の会社のことを考えると、下宿などということは到底不可能に決まっている、と思われました。

苦労しながら自分を大学に通わせてくれている親に感謝しなくてはいけない、と一貴は自分に言い聞かせました。

一貴は、この通学電車のことを「集団護送車」と呼んでいます。

入学してすぐ、学生たちの知的レベルの低さに愕然としたのが命名の動機でした。

電車の中で交わされていた彼らの会話を聞いて、耳を疑ったのです。


                                      つづく



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Mr.NAO

Author:Mr.NAO
東京都港区出身 
男性 
水瓶座

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