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キーボード

その日、彼は一日中パソコンと格闘しました。

昼休みにも外に出られず、カップ麺をすすりながらひたすらキーボードを叩き続けました。

課長に言われた資料が完成し、例によってねぎらいの言葉を受けることもなくCD-Rの束を返したのが午後4時過ぎでした。

そして、ここから初めて本来の仕事に取りかかったのです。

当の課長が定時に帰って行くのを横目で見ながら、彼は作業に没頭しました。

・・・・やったー! ・・・できたー!

ようやくチームの会議資料ができあがったのは夜の9時半でした。

目の奥が真っ白になり、からっぽの胃はキリキリと音を立てました。

鉛のようにつり革にぶら下がって自宅に帰ると、彼は泥のように眠りました。

ふだんより睡眠時間が短く疲れがそうとう残っていたので、翌朝起きるのは辛かったですが、今日は大事な会議があると思うと責任感がわいてきて、彼は力を振り絞ってマンションを出ました。

ところが、まったく予期せぬ事態が彼を待っていました。

出社してきたばかりの彼に、主任がこう言ったのです。

「課長が休みでさあ。で、伝言なんだけど、今日の会議で得意先のデータの資料、解説頼むって。」

「ええっ!? オレが? マジっすか?」

「うん。あいつなら内容、わかってるからって。そうなの?」

「え? ええ。まあ・・・。」

「じゃあ、そういうことで。頼むわ。」

「で、でも、オレ、自分のチームの提案も・・・。」

「大丈夫だよ。キミは優秀だから。そんじゃあね。」

主任にポンと肩を叩かれながら、彼は思いました。

資料作りなんか、やってやんなきゃよかった!
・・・待てよ。
ひょっとすると、課長は最初からこうするつもりで、オレにCD-Rを・・・?
だとしたら、チョームカツクぜ!

会議は午前10時から始まりました。

課長の得意先のデータ資料は、自分がまとめたものだとはいえ、彼が直接かかわった仕事についてのものではなかったので、ただ朗読するだけが精一杯でした。

何か質問が出ても答えることができないので、彼は薄氷を踏む思いで資料を読み上げました。

そして、読みながら彼は思いました。

これって、もしかして、イジメ?

その瞬間、胃に痛みが走りました。

うっ!
ヤベェ! マジ、いてえ!

幸いなことに、資料についての検討は、その資料に載った得意先をよく知る先輩が仕切ってくれましたので、彼はホッと胸をなでおろすことができました。

もうひとつの、チームとしての新製品の提案は現在彼が中心となっておこなっている仕事で、やはり彼が苦労して資料を作ったので、これについても自分が解説をしましたが、こちらの方は熟知した内容なので自信を持って話すことができました。

しかし、会議のあいだじゅう胃の痛みは続き、会議の後も彼の胃はうずきっぱなしでした。

「あれ? ステーキ、食べへんのん? 今日は。」

昼休みにいっしょに入ったファミレスで、同期の大阪人が驚いて言いました。

「ん? ああ。」

煮込みうどんをずるずると食べる彼を見て、大阪人がちょっと心配そうにささやきました。

「おい。胃の調子でも悪いんとちゃう?」

「え? 違うよ。」

「マジで?」

大阪人はそう言うと、彼の耳元に口を近づけました。

「おまえ、まさか、課長にやられたんやないやろな?」

「・・・! どういう意味だよ。」

彼が思わずそう聞くと、大阪人は低い声を出しました。

「知らんかったんかい。あの課長がイヤでビョーキになってまうやつが、ぼつぼつ出てきてんねん。」 

ええっ!?

うどんをはさんだまま、彼の箸は動きを止めました。

彼の耳から、ランチタイムのファミレスの喧噪がどんどんと遠ざかっていきました。 

                                      つづく





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Mr.NAO

Author:Mr.NAO
東京都港区出身 
男性 
水瓶座

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