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マザーズ

その女性は、彼のクラスにいる男子生徒の母親でした。

男子生徒の成績は悪く、このままでは最低レベルの高校にやっと入れるか、という状況でした。

しかし、母親は息子の成績に関する心配事はいっさい口にせず、教室に向かって廊下を歩きながら、自分が去年1年間、PTAのクラス代表としていかに苦労し、どれほど学校に貢献したか、口角(こうかく)泡を飛ばしながらしゃべりまくりました。

教室に入ると、母親たちはほとんど集まっていました。

昨年度2年生として担任し、クラス変えの結果また自分のクラスに来た生徒の母もいて、二言三言、言葉を交わしていると、さきほどの母親が突然大きな声で言いました。

「みなさん、今年はいよいよ3年生です。後がないんです。だから、要求したいことは全部言って、全部通す。そういう意気込みでいかなきゃダメよ!」

え? 何、それ。後がない? 要求? 全部通す? ここは組合の労使交渉の場か?

男性教師が、発言の意味がわからないまま突っ立っていると、その母親は彼に向かって言いました。

「先生。何か言うんでしょ。」

「・・・ああ。そうですね。」

男性教師は教卓の前に進みました。

男性教師

「えー、本日はお忙しいところ、まことにありがとうございます。初めてお会いする方々と顔なじみの方々と、両方いらっしゃいますが、いずれにしましても1年間、卒業までよろしくお願いします。」

すると、例の母親がいきなり立ち上がって叫びました。

「そんな通り一遍の言葉なんかいりませんから、先生の決意を聞かせてください!」

「決意?」

「はい。中学3年の子どもを持つ親にとって、これからの1年間は真剣勝負なんですよ。高校に行けなかったらアウトなんですよ。そういう子を預けるんですよ。その先生が頼りない、ふがいない人間だと困るんですよ。だから、決意を聞かせてください、って言ってるんですよ。」

気持ちはわからないでもないけど、なんでそうやって他人の心の領分にズカズカ踏み込んで来るような言い方をするわけ? そういうことを言う前に、あいさつというか、前置きというか、そういう言葉があるでしょ? 相手は、生まれて初めて、ついさっき会ったばっかりの人間でしょ? あんた、礼儀というものをまるっきり知らないね。

そう思って不愉快な気分になりましたが、そこはプロの教師です。

男性教師はグッとこらえて切り出しました。

「先ずは力を付けること。次はその力を伸ばすこと。同時に適性を見極めること。そして、力と適性に見合った学校を選び抜くこと。可能な目標を設定すること。これらのことに対して、私は担任として全力で協力していくつもりです。どうぞ、いつでもご相談ください。では、初めての保護者会ですので、お1人ずつ自己紹介をどうぞ。また、何かお聞きになりたいことがありましたらお尋ねください。その後、PTAのクラス代表を決めたら、今日は終わりです。では、一番前の方からどうぞ。」

自己紹介と質疑応答は、20分ほどで難なく終わりました。

その母親を見るとこちらを向いてニヤニヤ笑っています。

「じゃあ、役員を・・・。」

彼がぶっきらぼうに言うと、その母親は邪険そうに言いました。

「あ。先生は、後ろに行っててください。」

そう。ここからは自分が仕切るってわけか。

無言のまま、男性教師が教室の後ろに座ると、その母親は教卓の前に進み出て、またもやヒステリックに怒鳴りました。

「PTAのクラス代表委員、私でいいですか!?」

backformofmothers

パラパラと拍手が起こりました。

「ありがとうございます。私も大変なのでほんとはやりたくないんですけど、他にいないみたいなんで、やらせていただきます。そのかわり、みなさん、協力してくださいよ!」

母親たちは、やむなくうなずいています。

その母親は得意顔で男性教師の方を見ながら続けます。

「じゃあ、広報委員と卒業対策委員なんですけど、わたしの案があるんですけど、いいですか?」

すると、2人の母親が立ち上がりました。

「このお2人がやってもいいって言ってくれてるんですけど、いいですか?」

驚きにも似た喜びの声が上がったかと思うと、母親たちの間から大きな拍手がわき起こりました。

みんな、ホッとしてるねえ、自分がやらされなくてすんだから。しかし、すごい根回しだな。

そんなことを考えていると、その母親が満面の笑みを浮かべながら言いました。

「終わっていいでしょ? 先生。」

他のどのクラスよりも早く保護者会を終えて廊下に出ようとすると、男性教師のもとにその母親がやってきて胸を張りました。

「これでひとつ『貸し』ができましたね。ちゃんと返してくださいよ。」

貸し? 何だ、そりゃ。PTAの役員選びが自分のおかげでサアッと終わったことを言ってんの? 次元が低いねえ。だいいち頼んでないし、そんなこと。 なんでそんなに戦闘的なの? オレのこと、敵だと思ってんの? 初めて会って、何を根拠にそう思えるの? こんな人間、初めてだね。

彼女は胸を張ったまま、男性教師の返事も待たずに去っていきました。

なんとも後味の悪い保護者会でした。

そして、この悪い後味はその後もずっと長く引きずられていくことになるのでした。

                                      つづく


(写真はgoogleさんから拝借させていただきました。)




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Mr.NAO

Author:Mr.NAO
東京都港区出身 
男性 
水瓶座

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