≪ 2017 09   1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 - - - -  2017 11 ≫
*admin*entry*file*plugin| 文字サイズ  
FC2 Blog Ranking FC2 Blog Ranking

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


教室の窓

その日は、第1回保護者会の日でした。

彼のクラスの出席予定者は17人。

3年生の6クラスの中で出席率は最低でした。

そんなに役員になりたくないのかねえ。勝手なんだから。

年度始めの保護者会では、PTAのクラス代表となる各種役員を決めることになっているのです。

男性教師は口元をねじ曲げながら、腕組みをしました。

この中学校に来て2年目になります。

新卒で都心の前任校に入って6年いました。

しかし、その間、学級担任をしたのは後半の3年間で、それも1年生から3年生までを一回り経験しただけです。

特に最後の1年間は、昼夜を問わず3年生の進路指導に追いまくられ、やっと卒業させたと思ったら、強制転勤ではるか遠く離れた市部の学校に移らされました。

しかも、いきなり2年生の担任をしろと言われて耳を疑いました。

なかなかバリバリやれる人がいなくてねえ、というのが校長の言い分でした。

普通は慣れるまで副担任をやらせるか、担任なら1年生から始めさせるか、だろ。ベテランならまだしも、オレだって担任の経験、一回りしかないのに。新しい人間に、中だるみで一番難しい2年の担任か。よっぽど人材がいないんだね、この学校。

やがて、毎日働くうちに、だんだんわかってきました。

教師全体のうち、驚いたことに半数は新卒でした。

転勤の希望が少なく、教師に人気がない学校によく見られる状況です。

教育委員会が毎年、それしか策がないので、希望も何も表明できない新卒者を入れるからです。

この学校も教師から不人気の学校だったのです。

それがわかったとき、男性教師はガッカリしました。

やっぱり、そういう学校だったのか・・・・。でも、新卒の連中、いつも夜遅くまで残ってるよなあ。エライよなあ。だけどねえ・・・・。

彼らはものすごく一生懸命でしたが、この学校しか知らず、視野が狭く、経験が浅いので、失敗が多く、恐ろしく効率が悪く、いろいろなことが空回りの連続でした。

生徒ともなれ合ってしまい、その結果、態度や言葉遣いの面で生徒が非常に失礼でも平気で野放しにしている状態でした。

あとの半数のそのまた半数は40代でした。

彼らは管理職試験を毎回受けている上昇志向型で、学年や各部署の主任に任命され、「管理職のイエスマン」を演じてゴマをすることしかしませんでした。

こういう人たちは出世を阻む出来事が起きることを最も恐怖しますから、何ごとにも「ことなかれ主義」を貫き、万が一何かが起こっても絶対に責任を取りません。

要するに、自分のことしか考えていないのです。

ですから、言われたこと以外の仕事はしません。

この学校では、主任は学級担任をしないことになっていますので、年齢的には最も働き盛りの彼らは当然担任から外れるわけです。

残りは50代で、見事に全員が病気持ちでした。

慢性肝炎、十二指腸潰瘍、心筋梗塞、糖尿病、痛風、尿道結石、高脂血症と、まるで病気のデパートです。

そして、体がこんなだから、学級担任はできない、主任は務められない、授業は多く持てない、三年生の授業は担当できない、部活動は1人だけで顧問をできない、挙げ句の果てには、毎週何曜日は病院に行くから授業を入れずに空けてくれ、という具合に、すべて悉くを病気のせいにして、少しでも働かなくてすむように「最善を尽くす」のです。

このように、人の四から五分の一しか働いていないのに、給料は三十代の2倍もらっています。

なんなの? この連中は。これじゃあ、しょうがないか・・・・。

淡々と、しかし実直に業務をこなして1年がたちました。

年度末、校長が呼ぶので行ってみると、案の定、次は持ち上がって3年の担任を頼む、と言う話です。

やっぱりね。しょうがないね。

というわけで4月を迎え、現在に至っているのです。

ところで、初めての地域で初めて3年生の担任をするとき、教師が一番初めに行うべきことは、その学校の生徒がどんな高校を志望しているのかを知り、それらの高校のレベル、入試の傾向、特徴などを調べることです。

彼はまだ本格的にその勉強を開始していませんでした。

じゃあ、手始めに、このへんから・・・・。

男性教師は受験雑誌を手にとりながら、ふと時計を見ました。

時計の針は三時半過ぎを指しています。

おっと、こりゃあ、いけない。

あわてて職員室を出たところを、大きな声で名前を呼ばれました。

驚いて振り向くと、そこには髪をショートカットにした中年の女性が立っていました。

ショートヘア

「どちら様ですか?」

近付いていってそう言っても、女性は無言のままです。

よく見ると、男性教師に向けられた目だけが笑っています。

「これから保護者会があるので・・・・。」

その場から立ち去ろうとすると、女性が唐突に言い放ちました。

「私、役員、やりますから。去年もやったんですけど。今年も、やりますから。」

え? あんた、誰かの母親だったの? なんでそう言わないの? え? 役員?

瞬時のことに混乱している彼に向かって、女性は早口で言葉を突きつけました。

「手加減しませんからね!」

て、かげん? なに? それ。

首をちょっと斜めにしながら、男性教師は女性の顔を見ました。

目だけではなく、今や彼女の口までもが明らかに笑っていました。

                                      つづく


(写真はgoogleさんから拝借させていただきました。)
スポンサーサイト


この記事へコメントする















Mr.NAO

Author:Mr.NAO
東京都港区出身 
男性 
水瓶座

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。