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木村君

「腹が痛かったんだって? もう大丈夫か?」

男性教師が静かに聞くと、生徒は無表情のまま、かすかにうなずきました。

「はい。返す。これ。」

モデルガンを生徒の前に置くと、彼は弾かれたように教師の顔を見ました。

「本当は一昨日返そうと思ったんだけど、君が来なかったから。」

教師がそう言うと、生徒はびっくりした表情で言いました。

「でも、不要物は卒業まで取り上げ、じゃないんですか?」

「え? 誰がそんなこと言ってんの?」

教師の言葉が終わるか終わらないかのうちに、生徒は口をとがらせて言いました。

「みんな言ってますよ。だから一度取り上げられたら終わりだって。」

そんなウワサが立っていたのか、怖いな。

心の中でそうつぶやくと、教師は生徒の目をまっすぐに見ながら、ゆっくりと言いました。

「先生たちの間で、そのようなことを決めた覚えはないよ。もしそう決めたら、生徒全員に伝えるよ、朝礼かなにかで。大事なことだからね。不要物を見つけたら一度は没収するけど、あとの処置はケースバイケースで、ひとりひとりの先生に任せるということになっているんだよ。」

そう話しているうちに、生徒の顔は見る見る青ざめていきました。

「ぼくは、今日、君がなぜ今回のようなことをしたのか、君の意見というか、心境みたいなものを聞きたくて来てもらったんだけど、話してくれるか?」

生徒は目の前に置かれたモデルガンに視線を落としながら、力なく首をたてに動かしました。

これは、彼の精神は今、とてもデリケートな状態に陥っていると思ったので、教師はできる限り優しく、しかしハッキリと尋ねました。

「なんで持って来たの? これを。」

「・・・・遊びたかったからです。」

学校は遊ぶ所ではない、勉強する所だ、という建前論がのどもとまで出ましたが、教師はぐっとこらえて飲み込みました。

そう言ったら、そんなことはわかっています、オレは子どもじゃないんだから、という答えが返ってきて、かえって逆効果だと即座に判断したからです。

そこで、こう言ってみました。

「で、実際、遊んだのか?」

生徒は表情を変えずにこくりとうなずきました。

「楽しかった?」

すると、彼は首を横に振りました。

「どうして楽しくなかったのかなあ?」

こう聞くと沈黙が生まれました。

やがて、何秒たったころでしょうか、生徒がぼそりと言いました。

「・・・決まりを破っているから。」

この言葉を聞いた瞬間、教師は、もういいと思いました。

そして、答案用紙をモデルガンの隣に置いて言いました。

「君はちゃんとわかっているじゃないか。それでいいんだよ。さあ、試験、持って帰って。」

生徒の肩に手をやると、その肩が小さく震えています。

ん?

思わず彼の顔をのぞき込んで、教師は驚きました。

彼の目から涙があふれていたのです。

「・・・・ぼくは、不要物だとわかってるくせに、・・・モデルガンを、持って来て、・・・・で、取り上げられたら、・・・今度は、もう卒業まで、返してもらえないって、思い込んで・・・・・、ひねくれて、いたんです・・・・。ふだん、宇宙の話なんかして、仲がいい先生なのに・・・・。」

「ぼくのこと、仲がいい先生って思ってくれてたの?」

教師が静かに尋ねると、彼は大きくうなずきました。

「ありがとう。」

そのとき、涙がモデルガンの上にぽたりと落ちました。

「あ、大事な銃が濡れちゃったよ。」

ポケットからハンカチを出すと、教師はモデルガンを一拭きしながら言いました。

すると、生徒は絞り出すような声で再び話し始めました。

「・・・うちの親、うるさいから、試験、見せないと・・・・。モデルガンは、どうせ返されないけど、試験は・・・・、返して、・・・・・だから、ここに来たんです・・・。・・・・説教されるに、・・・決まってる、・・・イヤだったけど・・・・、行かなきゃ、・・・困るから・・・・。でも・・・・・。」

その姿を見ているうちに、教師は自分が中学生だったころを思い出していました。

思っていること、感じていることを、確かに思い、確かに感じているのに、それを言えなかったこと、確かにわかっているのに、それができなかったことの、なんと多かったことでしょうか。

目の前の少年は、今まさにそのまっただ中にいるのでした。

「君の気持ちはよくわかった。話してくれて、ありがとう。それから、君は自分がやったことについてもよくわかっている。だから、ぼくは説教なんかしない。もっとも、初めから説教なんてするつもりはなかったけどね。それより、また、君と宇宙の話ができるかな?」

泣き顔がほんの少し微笑みに変わったかと思うと、生徒はしっかりとした声で答えました。

「・・・はい。」

夕方の空

職員玄関を出ると、夕方の空にはオレンジ色の雲がたなびいていました。

それを仰ぎながら、男性教師は思いました。

思春期っていうのは美しい。

しかし、同時に、乱雑で、辛くて、哀しくて、ときどき自分でもかなぐり捨てたくなるものだ。

オレの仕事って、そういう人たちといっしょに生きるっていうことなんだな。

空を見上げながらそんなことを考えて立っていると、ぽんと肩を叩かれました。

振り向くと、あの社会科教師でした。

「良いことがありましたね?」

男性教師はゆっくりと黙礼をしました。

そして、2人はいつものとおり、駅へと通じる夕刻の商店街の中にすうっと消えていったのでした。

                                        了


(勝手ながら、明日から何回か執筆を休止します。)









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【】
素敵な話ですね、グッときました。
この歳になってもまだまだ未熟なところがある自分ですが、年齢や肩書き、経歴によって逆に過大評価されているんじゃないかと思うことがあります。
単に立場の違い、というだけで中身は同等な人間同士なんですよね、きっと。
これからもこのような素敵なストーリー、期待してま~す!
【お褒めいただき、ありがとうございます。】
☆ピアッツァさんへ☆
しばらくでした。
お読みいただいたうえ、うれしいコメントをいただき、ありがとうございます。
おっしゃるように、歳とか経歴の前にお互い同じ人間同士という気持ちがコミュニケーションのもとだと思います。
しかし、ピアッツァさんは今も立派に青春まっただ中だと思いますよ。
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Mr.NAO

Author:Mr.NAO
東京都港区出身 
男性 
水瓶座

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