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アパート

13

アパートに帰って、青年が会社入りを勧められたと告げると、彼女は目を輝かせて言った。

「すごくいい話じゃない。

絶対いいと思うわ。」

「でもさ、たった二人でやってる、ちっちゃい会社だぜ。」

「ほんとは、前みたいにまたバリバリ働きたいんでしょ?

それに、そこって、これから何もかも自分たちで作り上げて行く若い会社なんでしょう?

働きがい、あるんじゃない?」

「・・・うん。

そうだな。

業種も、オレ向きだしな。」

酒井の会社は、携帯電話の着信メロディーを作ることを主な業務としていた。

着信メロディー

青年には、メロディーの創作とアレンジをしてほしい、という話であった。

酒井もパートナーも作編曲ができないので、その一番肝腎なところを外部に委託せざるをえず、必ずしも意にそぐわないものができてしまったり、経費がかかりすぎたりして、いいかげんに社内でそれができるようにしなければ、と切実に思っていたところだったのだ、という。

起業当時は、既成の曲を、著作権料を払って加工していたのだが、だんだんとオリジナル曲への需要が高まってきて、今では販売している曲のほとんどが自作曲だ、ということだった。

そんなとき、偶然再開したかつての同級生が、高校時代、バンドを組んで作曲も手がけ、なおかつコンピュータの操作にも長けていたことを思い出した、というわけである。

事実、青年は高校生バンドのコンテストに自作をひっさげて出場し、準優勝まで行った実績を持っていた。

高校生バンド

会社の倒産、実家との離別、独立、結婚と、経済的な困窮が続いているので、楽器も楽譜も手放して久しくなってしまったが、音楽に対する愛着は微塵も失っていなかった。

また、コンピュータの操作には、マッキントッシュ、ウインドウズともに明るく、新卒で入った会社の中で、その腕はさらに磨かれていた。

だから、正直言って、酒井から入社してくれと言われたときは、強烈に心が動いた。

ただ、資本金も少なく、若い男が二人だけでやっている、全く無名の、将来性の保証などまるでない、このような零細企業に入って、果たして安定した生活が実現するのかどうか、が、心の底から心配だったのだ。

でも、青年は思った。

マイナスからの出発だもんな。

間違いなくプラスの方向に行くよ。

それしかないよ。

よし。

翌日、宅配便の営業所で所長と話し、今月いっぱいで辞めることを了承された青年は、夜、酒井の会社を訪れて、入社の意志を伝えた。

「ありがとう・・・。」

青年の右手を握って、酒井は頭を下げた。

                                     つづく

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Mr.NAO

Author:Mr.NAO
東京都港区出身 
男性 
水瓶座

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