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舞台照明

ホールは瞬く間に満席となりました

やがて開幕ベルが鳴り渡り、いよいよ幕が開きました。

浜野さんはまるで自分が舞台に出るような気持ちに襲われ、心臓が口から飛び出しそうになるほど緊張しながらステージを見つめました。

物語は、『ハメルーンの笛吹き』を題材にした童話風のミュージカルでした。

ある晩、身代金目当ての一団がとある町にやって来て、幼い子どもを自由に動かすことができる笛を吹き、町中の子どもたちを根こそぎ誘拐していこうとします。

しかし、ここに才気溢れる2人の少年がどこからともなく登場。

彼らは、笛の魔力を消す方法を見つけ出してこれを実行し、子どもたちを救い、一夜にして見事に犯人たちを一網打尽にする、というお話です。

隆介クンがどの役なのかわからなかったので、浜野さんはパンフレットの配役表と首っ引きで、常に舞台上を隅から隅まで舐めるように凝視し続けました。

そして、月明かりの中である少年が1人で歌うシーンでハッとしました。

・・・・え?

・・・これ、・・・・隆介?

・・・え?

少年の歌は実に朗々として素晴らしいものでした。

また、その演技も自然でいて迫力とスピード感にも満ち、とても立派でした。

一見、声も姿も、いつもの隆介クンとは違っているように感じられました。

しかし、両方の目をよく見開き、両方の耳をよくそばだててみると、隆介クンのようにも思えました。

浜野さんは急いで配役表に目を移しました。

・・・・えーと、この役の名前は、確か、・・・アクタス、だったよな。

・・・アクタス、アクタス・・・・・。

・・・・「アクタス 浜野隆介」。

ええっ?

・・・隆介?

・・・ほ、ほんとに?

浜野さんは、目と耳を疑いました。

今、正にこの舞台の上で魅力的に歌い演じている達者な少年俳優は、紛れもなく自分の息子・隆介クンだったのです。

しかも、アクタスという役は主役の少年を助けながら2人で誘拐団に立ち向かう、殆ど舞台に出突っ張りの、言ってみれば準主役の重要な役どころでした。

・・・・おまえ。

・・・こんなに大きな役なのに、なんで最初、来るななんて言ったんだよ。

・・・すごいじゃないか。

・・・すごいよ。

胸をドキドキさせながら、隆介クンの舞台に浜野さんは食らいつきました。

後にも先にも、劇を観てこれほど興奮し、これほど胸が高鳴ったのは、生涯で初めてのことでした。

かくして、ステージはどんどん展開し、クライマックスを迎えました。

2人の少年の働きで誘拐されかかっていた子どもたちは解放され、犯人一味は全員捕まりました。

そこで、町の大人たちが2人に感謝の言葉を述べるのですが、その中で、市長さんが言います。

「心からお礼を言います。しかし、ひとつだけ聞きたいことがある。なぜ、君たちにだけは、あの笛の魔力が通じなかったのかね?」

その瞬間、2人の背中から2枚の羽が現れます。

2人は天使だったのです。

2人の天使はゆっくりと明け方近くの空に昇って行きながら、勝利の歌を歌い、やがてそれは全員による大合唱となっていきます。

暫くすると、月明かりに照らされつつ、まだ暗い天に昇って行く隆介クンが、握りしめた拳を高く掲げて、平和の尊さを讃える歌をソロで歌い出しました。

拳

「この世に悪は要らない。

この世に渇いた夜は要らない。

心はいつもシルクのように。

心はいつも真綿のように。

そんな心ばかりなら、この世はいつも幸せ。

そんな心ばかりなら、この世はいつも平和。

さあ、そんな心でお休み。

そんな心で見る夢は、パンダさんの夢。

そんな心で見る夢は、宇宙旅行の夢。

そんな心で見る夢は、静かな静かな、海の夢。」

ソロが終わると再び大合唱となりました。

合唱はだんだんと盛り上がり、最高潮に達しました。

壮麗な歌声と音楽が鳴り響く中、緞帳がゆっくりと下りて来ました。

しかし、浜野さんは、最早緞帳の姿をはっきりと見ることはできませんでした。

膝に載せたパンフレットの上に、涙がぽたぽたとこぼれ落ちました。

満場の拍手に応えて、今一度緞帳が上がって行きます。

そこには、出演者たちとともに凛々しく微笑みながら礼をする隆介クンがいました。

浜野さんは、一生懸命涙を拭きながら、その濡れた大きな手で拍手しました。

・・・・ありがとう・・・。

・・・・ありがとう、・・・隆介・・・・。

・・・オレの子でいてくれて、・・・・ありがとう・・・。

・・・・ありがとう・・・。

・・・・・・ありがとう・・・・。


                                                   
                                   了










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Mr.NAO

Author:Mr.NAO
東京都港区出身 
男性 
水瓶座

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