2009/08/06 11:29:35
ネットで調べると、田中有一教授はその大学の歴史学科を代表する有名な学者で、歴史学会の理事や文部科学省関係の研究団体の役員なども務める、とても有能な人物でした。
一貴(かずき)は、この田中教授の講義をなんとしても受けてみたくなりました。
翌日、大学に着くと一貴は真っ先に図書館に行き、専用パソコンで「著者・田中有一」を検索しました。
すげー。
ってゆーかー、カッコイー。
田中教授が書いた本は、一貴が借りたもの以外で5冊もありました。
『明治天皇の真実』『文明開化の表と裏』『近世と現代の間』『近代日本は存在したのか?』『太平洋戦争の意味』。
今までの一貴ならこういった書名を目にしても、知的好奇心より先に「こんな本をいくら買い込んで置いといたって、ここの学生たちは100年たっても絶対読まないだろうに。なんてムダなんだろう。」というようなセリフが口をついて出たことでしょう。
しかし、今の一貴は違いました。
窓口で借りていた本を返すと、一貴は黙ってそれら5冊すべてを借りました。
その日から、一貴は田中教授の本を一心不乱に読み始めました。
最も強く興味を引かれたのは『太平洋戦争の意味』でしたが、楽しみは後にとっておこうと考えて、『明治天皇の真実』から読んでいきました。
そして、5冊を読破した2週間後、一貴は田中教授に歴史を教わることを決めました。
つまり、来年の春、その大学に入ることを決めたのです。
本当にひとつの専門分野を極めた研究者とはどういう人なのか、また、その人が渾身(こんしん)の研究成果を惜しげもなく動員して書き上げた書物とはどういうものなのか、一貴は田中教授の著書から感動的に学びました。
もちろん、本の中には難しくて理解できにくい部分もありました。
でも、何よりも初めて本物に触れた圧倒的な手応えがすばらしくうれしかったのです。
わけても『太平洋戦争の意味』は白眉(はくび)で、興奮を伴って本を読んだ産まれて初めての体験を一貴はしました。
田中教授は、この本の文中で「戦争と経済は一心同体だ。」というようなことを書いていました。
似たようなことは最初に読んだ『戦争と歴史と日本』にも書いてありましたが、『太平洋戦争の意味』の記述の方がより具体的で、とても面白かったのです。
こういう先生に習いたい。
一貴は心の底からそう思いました。
だけどー・・・・・・。
ハードルたけ(高)ーかなー、マジで・・・。
もし、その大学に入り直すとしたら、解決しなければいけない問題がたくさんありました。
先ず、今の大学をどうするのか、です。
通い続けるのか、やめるのか。
通わないが、万が一その大学に入れなかったときのために、籍だけは置いておくのか。
通えば単位を取るために一定の勉強をしなければならないし、時間的にも精神的にも労力を奪われます。
それでいて、レベルの高い大学に入るための受験勉強を並行してこなし、受験テクニックと高偏差値を身に付けられるでしょうか?
一方、籍だけ置いて通わないというのならば、時間的精神的な負担はなくなるので、思う存分受験勉強に労力を注げるようになるでしょう。
しかし、籍を置いているということは学費を払わなくてはいけないということです。
後期分の授業料である何十万円ものお金を、むざむざ捨てることになります。
一貴の父親がそのようなことを承知するはずはありません。
では、「山の中のど田舎」の大学などスパッとやめて、浪人として受験勉強まっしぐらの日々に突入するか。
でも、それこそ落ちたら・・・・・。
あ~~~~~。
マジ、オレ、どーしたらいーんだー!!
つづく
(写真は、googleさんから拝借させていただきました。)
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